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東京地方裁判所 平成5年(ワ)16882号 判決

原告

松川光一

被告

森太市

ほか二名

主文

一  被告森太市及び同有限会社森商店は、原告に対し、各自、金一一八万円及びこれに対する平成四年八月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告森太市及び同有限会社森商店に対するその余の請求並びに被告丸林運輸株式会社に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告に生じた費用の一〇分の一と被告森太市及び同有限会社森商店に生じた費用の一〇分の一を、被告森太市及び同有限会社森商店の負担とし、原告に生じたその余の費用、被告森太市及び同有限会社森商店に生じたその余の費用並びに被告丸林運輸株式会社に生じた費用を、原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、各自、原告に対し、金二七四六万〇一〇九円及びこれに対する平成四年八月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二当事者の主張

一  原告の主張

1  原告と被告らの関係

(一) 被告丸林運輸株式会社(以下「被告丸林運輸」という。)は、一般小型(限定)貨物自動車運送事業等を業とする株式会社であり、原告は、平成四年七月一日から平成五年七月三一日までの間、被告丸林運輸にトラツククレーンの運転手として勤務し、鋼材の運搬、積降ろしの業務に従事していた。

(二) 被告有限会社森商店(以下「被告森商店」という。)は、製鉄、非鉄金属の各種原料の販売等を業とする有限会社であり、被告森太市(以下「被告森」という。)は、同社の代表者代表取締役である。

2  本件事故の発生

原告は、平成四年八月一日、被告森商店の作業現場内に赴き、鋼材(レール)をトラツクに積み込み、被告丸林運輸に搬送して、他の車両に積み替える作業を行うため、午後零時ころ、被告丸林運輸所有のトラツククレーン(以下「被告車」という。)を運転して、被告森商店の作業現場に到着した。原告は被告森の合図に従つて車両を被告森商店の作業現場内に駐車させ、車両の荷台を整理してレールを置く準備をした。被告森は、敷地内に積んである奥のレールの上に乗り、レールを被告車に積み込むため、一人で玉掛け用ワイヤーロープを伸ばしていた。原告は、しばらくの間、被告車の荷台で被告森の作業を見ていたが、時間がかかりすぎること及びサービス精神から、自発的に被告森の作業を手伝おうと考え、被告車を降りて奥のレールの上に乗り、置いてあつたワイヤーロープ二本のうち、被告森が一本を伸ばしていたので、原告は、残る一本のワイヤーロープを伸ばして被告森の作業を手伝つた。被告森が、レールの下にワイヤーロープを二本通し、反対側にいた原告が、ワイヤーロープ二本を、クレーンの先端部分でワイヤーロープを掛けて吊り上げるフツクに掛けた。原告は、ワイヤーロープをフツクに掛けた後、右側のワイヤーロープを右手で、左側のワイヤーロープを左手で、それぞれ左右に広げ、レールが吊り上がるときに中央に寄るのを防いでいた。被告森は、左手でワイヤーロープの一本を持つて支え、右手でクレーンの操作スイツチを作動させてレールを少し上に持ち上げたところ、そのレールの下に積んであつた長さ五メートル、重さ二五〇キログラムのレール二本が原告の右足の上に崩れ落ちた。

3  責任原因

(一) 被告森及び同森商店

本件事故は、被告森商店の管理下にある工場敷地内で発生した事故であるから、被告森商店及び同社の代表取締役である同森は、工場の作業現場に積載されている鋼材及びクレーン等に対する管理責任があり、被告森及び同森商店は、現場で作業する者の安全に配慮して事故を防止する義務がある。被告森及び同森商店は、レールを積んである台木の横幅を十分に取るか、レールの横一列を針金で固定するなどして管理し、レールの適正に配列していれば、レールが崩れ落ちることはなく、本件事故は発生しなかつた。また、被告森及び同被告森商店は、作業開始前に十分な点検を行い、レールの状態、積まれ方に注意して作業を開始すべきであつた。

被告森は、玉掛け作業に従事させるには、玉掛け技能講習を終了している必要があるにもかかわらず、原告が、玉掛け作業の資格を有しているかに注意せず、玉掛け作業の資格を有していない原告に玉掛け作業を手伝わせた。

被告森及び同森商店は、右のような注意義務を怠つて原告を玉掛け作業に従事させ、クレーンでレールの吊り上げ作業を行つた結果、本件事故を発生させたのであるから、被告森は、民法七〇九条、四一五条により、同森商店は、同法四四条一項、四一五条により、原告に生じた損害を賠償する責任がある。

(二) 被告丸林運輸

クレーン操作をするには免許が必要であり、玉掛け作業を行うには玉掛け技能講習を終了しなければならない就業制限が、労働安全衛生法及び同規則により定められている。原告は、被告丸林運輸に勤務を始めた際も本件事故が発生した際も、クレーン操作の免許は持つておらず、かつ、玉掛技能講習を終了していなかつた。したがつて、被告丸林運輸は、十分な訓練期間を設けて安全教育を実施し、クレーン免許の取得、玉掛技能講習を受講させてから右作業に従事させるべきであつた。にもかかわらず、被告丸林運輸は、これを怠り、原告に、クレーン操作の免許を取得させず、玉掛技能講習も受講させないまま、入社当日から、原告に、一人でトラツククレーン車を運転させて、小型移動式クレーンの操作及び玉掛け作業に従事させ、鋼材の運搬、積み降ろし作業を行わせた。

その結果、本件事故が発生したのであるから、被告丸林運輸は、民法四一五条により、原告に生じた損害を賠償する責任がある。

4  原告の受傷及び後遺障害

原告は、本件事故によつて、加療八か月間を要する右外傷性足背部腱鞘炎を伴う右足舟状骨骨折等の傷害を負つた。原告は、平成四年八月一日、座間厚生病院で応急措置を受け(実通院日数一日間)、同月三日から平成五年四月五日までの間、松江病院に通院し(実通院日数一六八日間)、治療を受け、平成五年四月五日、右足背部の知覚障害等の後遺障害を残して症状が固定し、右後遺障害は、江戸川労働基準監督署から法施行令二条別表の後遺障害等級(以下「後遺障害等級」という。)一二級に認定された。

5  原告の損害額

(一) 原告の損害

(1) 治療費 五九万六一八二円

平成四年八月三日から平成五年四月五日までの間の松江病院の治療費として、右金額を要した。

(2) 通院付添費 四七万七〇〇〇円

原告は、通院に付添が必要であつたところ、受傷後、一〇日間は、被告丸林運輸の車両で通院の送り迎えを受けたが、その後の一五九日間は、原告の妻が自家用車で送迎をし、通院の付添をした。その間、一日当たり二〇〇〇円の付添料を要したので、通院付添料は四七万七〇〇〇円を要した。

(3) 通院交通費 一一万四四八〇円

原告は、右通院期間中、一五九日間は、原告の妻が自家用車で送迎をして通院した。その間、一日当たり七二〇円の通院交通費を要したので、通院交通費は一一万四四八〇円を要した。

(4) 休業損害 四〇三万一一五三円

原告は、本件事故当時、被告丸林運輸に勤務していたが、平成四年七月分の給与は、三五万〇四一〇円であり、これにボーナス五か月分を加算して算出すると年収五九五万六九七〇円となる。これは、一日当たり一万六三二〇円の収入となるところ(円未満切り捨て。以下、同じ)。原告は、本件事故によつて、本件事故の翌日の平成四年八月二日から症状が固定した平成五年四月五日までの二四七日間、就労することができず、右収入を得ることができなかつたので、原告の作業損害は四〇三万一一五三円となる。

(5) 逸失利益 一七四八万八四七二円

原告は、前記の後遺障害が残存した結果、労働能力を一四パーセント喪失した。原告の収入は、右のとおり年収五九五万六九七〇円である。原告は、症状固定時二九歳であつたので、原告は、本件事故によつて、労働可能な年齢である六七歳まで三八年間の得べかりし利益を喪失したものと認められる。したがつて、原告の逸失利益、右の五九五万六九七円に、労働能力喪失率一四パーセントと三八年間の新ホフマン係数二〇・九七〇を乗じた額である金一七四八万八四七二円と認められる。

(6) 慰謝料 四二〇万円

原告は、本件事故によつて負つた後遺障害により、トラツク運転手として稼働する道を絶たれたことを考慮すると、本件における慰謝料は、傷害慰謝料が一二〇万円、後遺障害慰謝料が三〇〇万円の合計四二〇万円が相当である。

(7) 損害賠償請求関係費 一万六二四六円

原告は、調停申立て費用として五二四六円、診断書代等として一万一〇〇〇円の合計一万六二四六円を支出した。

(二) 既払金 一九七万三四二〇円

原告は、労働者災害補償保険から、保険給付額として一七六万三四二四円、特別支給金として二〇万円の合計一九七万三四二〇円の支払いを受けたので、これを既払金として控除して請求する。

(三) 弁護士費用 二五〇万円

原告の被つた損害のうち、相当因果関係のある弁護士費用として二五〇万円が相当である。

(四) 合計 二七四六万〇一〇九円

二  被告らの認否及び反論

1  被告森及び同森商店

(一) 原告と被告らの関係(一の1)について

(二)の事実は認め、その余は不知。

(二) 本件事故の発生(一の2)について

原告の足の上にレールが二本落下したとの点は否認し、その余の事実は認める。原告の足の上に落下したレールは一本である。

原告の主張にもあるように、原告は、被告森が、被告車にレールを積み込むため、クレーン操作の最中に、作業現場にいた原告が、一方的に被告森の作業に手を貸したものであり、被告森が原告に補助を依頼した事実はなく、被告森と原告が共同して玉掛け作業を行つていた事実はない。

(三) 被告森及び同森商店の責任(一の3の(一))について

被告森及び同森商店の責任は、いずれも否認する。

本件作業場の鋼材置き場の台木の横幅は十分に取つてあつた。レールを針金で固定していなかつた事実は認めるが、台木の横幅が確保されていれば、レール自体の重量でレールは十分に安定しており、レールを針金等で固定する必要はない。被告森及び同森商店は、レールを適式に配置し、管理していたものであり、かかる注意義務違反はない。

本件の玉掛作業は、被告森が単独でできる程度のものであり、原告と被告森が、予め役割分担を決めて、共同で玉掛け作業をしようとしたものではなく、被告森と原告が共同して玉掛け作業を行つていた事実はない。前記のとおり、本件事故は、原告が運転してきた車両に、被告森が、鋼材を積み込むため、クレーン操作の最中に、作業現場にいた原告が、一方的に被告森の作業に手を貸したものであり、被告森が原告に補助を依頼した事実はない。被告森は、原告が、玉掛作業の資格を有していたかについては知り得なかつたのみならず、知る必要もなかつたのであり、原告に対して、その主張するような注意義務を負うものではない。

(四) 原告の受傷及び後遺障害の程度(一の4)について

(1) 原告が、本件事故によつて、加療八か月間を要する右外傷性足背部腱鞘炎の傷害を負つた事実は認めるが、右足舟状骨骨折等の傷害を負つた事実は否認する。原告の初診の座間厚生病院では、原告の症状は右下腿右足関節打撲内出血と診断されており、骨折の診断は受けていないから、原告に、右足舟状骨骨折の傷害は生じていない。

(2) 原告が、平成四年八月一日、座間厚生病院で応急措置を受け(実通院日数一日間)、同月三日から平成五年四月五日までの間、松江病院に通院し(実通院日数一六八日間)、治療を受けた事実は不知。

(3) 平成五年四月五日、右足背部の知覚障害等の後遺障害を残して症状が固定した事実は否認する。原告は、事故当日、自ら車両を運転して帰宅したこと、通院も、当初は、被告丸林運輸の車両で送迎していたが、その後は、原告所有の自家用車を、原告自らが運転して通院していたこと、初診時の診断を見ても、足関節の屈曲については、背屈曲可と記載されており、運動制限はなかつたことを見ても、原告の症状は、極めて軽微なものであり、後遺障害が生じるような傷害は負つていない。また、原告の後遺障害診断を受けた疼痛は、骨折が原因となつたものではなく、腱鞘炎に過ぎない。後遺障害診断書でも、稼働制限は神経上の制限に過ぎず、自動にて制限を認めるだけで、他動では正常範囲内と認められている。しかも、平成七年四月二〇日の時点での原告の日常生活状況を見ても、歩行時に全く跛行状態は認められず、神経症状は残つていない。したがつて、原告に後遺障害は残存していない。

(4) 原告が、江戸川労働基準監督署から後遺障害等級一二級に認定を受けた事実は認める。

(五) 原告の損害額(一の5)について

(1) 治療費、通院付添費及び通院交通費((一)の(1)ないし(3))についていずれも不知。

(2) 休業損害((一)の(4))について

ア 原告が、本件事故当時、被告丸林運輸に勤務していた事実は認める。

平成四年七月分の給与は、三五万〇四一〇円であることは認めるが、ボーナス五か月分を加算すること、原告の収入が一日当たり一万六三二〇円の収入となることは否認する。被告丸林運輸は、歩合制を採用しており、ボーナスは支給していない。

イ 原告が、本件事故によつて、本件事故の翌日の平成四年八月二日から症状が固定した平成五年四月五日までの二四七日間休業した事実は認めるが、就労することができなかつたとの事実は否認する。原告は、平成四年一一月一七日に松江病院の医師から就業を指示されており、同日までの三か月間が本件と相当因果関係の認められる休業期間である。

(3) 逸失失利益((一)の(5))について

原告には後遺障害は残存していないので、逸失利益は認められない。

(4) 慰謝料((一)の(6)、(7)及び(三))について

いずれも不知。

(5) 損害のてん補((二))について

原告が、労災保険金から合計一九六万三四二四円を受領し、これらが損害額てん補されるべきであるとの事実は認める。

原告は、右の外にも、労働者災害補償保険から、療養賠償給付として六〇万八五五〇円、療養費用として一七六〇円、休業保障給付として一八七万一六九四円の支払いを受けたので、これらも既払金として控除されるべきである。

(6) 過失相殺

前記のとおり、本件事故は、原告が運転してきた車両に、被告森が、鋼材を積み込むため、クレーン操作の最中に、作業現場にいた原告が、一方的に被告森の作業に手を貸した結果、発生したものであり、被告森が原告に補助を依頼した事実はない。その作業内容は、ワイヤーを、吊り上げたレールの一段下部の台木に掛けるだけの作業であつた。原告が、レールの異常に予め注意していれば、事故は回避可能であつたのに、原告は、全く注意をはらわず、漫然とロープをクレーンのフツクに掛け、レールを吊り上げた結果、本件事故が発生したものである。被告森がレールの積荷作業を自ら行つていれば、本件事故は発生していなかつた。本件事故は、原告の過失によるところが大きく、その損害から少なくとも五〇パーセントを過失相殺すべきである。

2  被告丸林運輸

(一) 原告と被告らの関係(一の1)について

(一)の事実は認め、(二)の事実は不知。ただし、被告丸林運輸においては、平成五年七月三一日より以前の段階で、原告を退社扱いとしていた。

(二) 本件事故の発生(一の2)について

被告森及び同森商店の認否及び反論(二の1の(一))と同じ。

(三) 被告丸林運輸の責任(一の3の(二))について

被告丸林運輸の責任は、否認する。

本件事故は、原告が、被告丸林運輸の業務に従事中の作業の際に発生した事故ではないから、被告丸林運輸の業務中の事故ではない。しかも、本件事故時、玉掛け作業は被告森が行つており、かつ、崩れ落ちたのは玉掛け作業をしていた鋼材ではなく、足下に組んでいた鋼材であるから、原告の玉掛け作業に落ち度があり、鋼材が崩れて生じた事故ではない。したがつて、原告主張の被告丸林運輸の注意義務と本件事故との間には因果関係はない。

原告がクレーン操作の免許を有していない事実は認めるが、被告丸林運輸は、原告の意に反して、クレーン操作及び玉掛け作業に従事させたことはなく、クレーン操作及び玉掛け作業は、原告が自ら進んで作業を行つたものである。

被告丸林運輸が、安全教育を行つていないとの主張は、否認する。被告丸林運輸では、一か月交代で長距離車とユニツク車の運転手に対し、安全に関するミーテイングを実施しており、本件事故当日も、ユニツク車の運転手に対し、ユニツク車の安全教育を行うことを予定していた。また、被告丸林運輸は、費用を支出して、クレーン車の免許を取得するために原告を講習に通わせていたし、従業員に対し、玉掛け作業の講習を受けさせる体制を整えていた。また、原告は、被告丸林運輸に勤務する前に、既に他社で、玉掛け作業の経験があつたので、あえて講習を受ける必要はなかつた。

(四) 原告の受傷及び後遺障害の程度(一の4)について

認める。

(五) 原告の損害額(一の5)について

被告森及び同森商店の認否及び反論(二の1の(五)の(1)ないし(5))と同じ。

(六) 過失相殺

被告森及び同森商店の認否及び反論(二の1の(五)の(6))と同じ。

三  被告らの主張に対する原告の認否及び反論

1  事故態様及び被告らの責任について

原告が、被告森と、玉掛け作業を予め役割分担を決めて共同作業をしようとしたものではなく、玉掛作業は被告森が単独でできる程度のものであることは認めるが、被告森は、原告が玉掛け作業を手伝つているのを見て、これを拒否しなかつたのであるから、原告と被告森は、共同で玉掛け作業を行つたものである。

被告丸林運輸が、一か月交代で長距離車とユニツク車の運転手に対し、安全に関するミーテイングを実施しており、本件事故当日もユニツク車の運転手に対する安全教育を行なう予定であつた事実は認めるが、原告が主張するのは、一般的な作業についての安全教育ではなく、玉掛け講習を受けさせ、技能講習を終了していない者を玉掛け及びクレーン作業に従事させてはならない義務に反した点である。被告丸林運輸は、原告にクレーンの免許を取得させず、かつ、玉掛作業講習を終了させないまま、原告を玉掛け及びクレーン作業に従事させたのであるから、被告丸林運輸は、安全教育を実施したとは言えない。

2  損害のてん補

認める。

3  過失相殺

本件では、被告森は、原告が玉掛け作業の資格を有しているかを確認しないまま、原告に無資格で玉掛け作業を手伝わせたものであるから、過失相殺は認められるべきではない。

第三争点に対する判断

一  被告らの責任について

1  被告森及び森商店

本件事故の態様は、落下したレールの本数を除き、当事者間に争いがないところ、右の事故態様によれば、本件事故は、被告森及び同森商店のレールの積み上げ方に不備があつたため、被告森が、ワイヤーロープでレールを吊り上げたとき、その下に積み上げていたレールが崩れて原告の右足の上に落下して発生したものであることは明らかである。

ところで、被告森商店の作業場内には、本件における原告のように、レール搬出作業をする者など、被告森等、被告森商店の関係者以外にも、同作業場内に立ち入る者が存在することは明らかであり、被告森商店の代表者である同森は、そのことを十分に認識し得たのであるから、被告森は、レールの積み上げを適式に保ち、レールが崩れて敷地内に立ち入つた者が受傷しないよう、その安全に配慮する注意義務があつたと認められる。そして、本件の場合、被告森が原告に依頼して作業を手伝わせたものではなく、原告が自発的に手伝つたものであることは当事者間に争いがないものの、原告及び被告森各本人尋問の結果によれば、被告森は、原告が、すぐ横で手伝つているのを容認したのみならず、その助力を得て作業を行つていたのであるから、被告森は原告の助力を承諾したものと認められ、共同で作業を行つていたものと認められるところであり、被告森は、レールが崩れて被告森の作業を補助した原告が受傷しないよう、レールの積上状況を点検しつつ作業を行う注意義務があつたと認められる。

にもかかわらず、被告森は、かかる注意義務を怠つて、漫然とクレーンでレールを吊り上げる作業を行つた結果、吊り上げたレールの下に組んであつたレールを崩して原告の右足の上にレールを落下させ、本件事故を発生させたのであるから、民法七〇九条により、また、被告森は、同森商店の代表者であり、本件事故は、被告森商店の業務中に発生した事故であるから、被告森商店は、民法四四条一項により、それぞれ、原告に生じた損害を賠償する責任があると認めるのが相当である。

2  被告丸林運輸

(一) 原告は、原告がクレーンの免許を有していないにもかかわらず、クレーン車の業務につかせていた注意義務違反があると主張するが、原告主張の事故態様からも明らかなとおり、本件事故は、被告車のクレーンを作動させている最中の事故でないことが明らかであるので、原告がクレーンの免許を有していないにもかかわらず、クレーン車の業務についていたことと本件事故との間に因果関係が認められないことは明らかである。

(二)(1) 原告本人尋問及び被告丸林運輸代表者尋問の各結果並びに弁論の全趣旨によれば、荷受に向かつた相手方に、荷を積み込むためのクレーンがない場合には、車両に備え付けられたクレーンによつて荷を車両に積み込む作業を行わなければならないので、荷の積み込み作業も被告丸林運輸の運転手の業務と言えるが、相手方にクレーンが備わつているときは、荷の積み込み作業は相手方で行うので、車両に荷を搬入する作業は、被告丸林運輸の運転手の業務ではなく、相手方の業務であることが認められる。

前記争いのない本件事故の態様、甲一一の一ないし一二及び戊一一によれば、本件事故は、荷を被告車に積み込むため、被告車の荷台の上で発生した事故ではなく、被告森商店の作業現場内の、鋼材置き場の鋼材の上で発生した事故であるところ、被告森商店は、荷を積み込むためのクレーンを具備しており、本件事故は、被告森が、被告車に鋼材を積み込むための作業を行つている際に発生した事故であることが認められるので、本件事故は、原告が、被告丸林運輸の業務に従事中に発生した事故ではないと認められる。

(2) 原告は、本人尋問において、「場所によつて違うが、トラツクに荷を積んで運ばなければならないので、それに付随する仕事は全て手伝う必要があると考えていた、社長から業務と言われた。」と供述している。しかしながら、原告は、他方で、本件事故に至る経過について、「トラツクを被告森商店の作業場内に停車させた後、しばらくの間、被告車の荷台で被告森の作業を見ていたが、時間がかかりすぎること及びサービス精神から、自発的に被告森の作業を手伝つたものである。」とも供述している。仮に、原告が供述するように、荷を積み込む作業を原告の作業と考えていたのであれば、しばらくの間、被告車の荷台で被告森の作業を見ていた後に時間がかかりすぎること及びサービス精神から、被告森の作業を手伝つたというのは、不合理であり、停車後、直ちに、荷を積み込み作業に入つているはずである。したがつて、本件において、被告森商店の作業場内において、被告森商店の鋼材を被告車に積み上げるための作業を行うことは、原告の鋼材運搬作業の中には含まれていないと、原告自身が考えていたものと認められ、本件事故時の作業が、原告の被告丸林運輸での業務である旨の原告の供述は採用できない。

(三) 以上のとおり、本件事故は、原告が、被告丸林運輸の業務を遂行中に発生した事故とは認められないのであるから、被告丸林運輸は、かかる業務外の行動についてまで、従業員に対し安全配慮義務を負うものではなく、原告が、玉掛け作業の講習を終了していなかつたか否かにかかわらず、被告丸林運輸が、原告をユニツク車の業務につかせていた事実と本件事故との間には因果関係が認められない。のみならず、本件事故は、玉掛け作業中に、その玉掛け作業自体に過誤があつて発生した事故ではなく、被告丸林運輸の管理の及ばない、被告森商店の作業場内の鋼材の積み上げ方法の過誤で発生したものであるから、玉掛け作業の講習を終了していなかつたとしても、右事実と本件事故との間には、因果関係を認めることはできない。

(四) また、原告は、被告丸林運輸が、安全教育義務に反したとも主張しているが、一般的な作業についての安全教育が実施されていたことは、当事者間に争いがなく、本件において、原告が主張するのは、一般的な作業についての安全教育ではなく、玉掛け及びクレーン作業の技能講習を受けさせるべき義務であるところ、前記のとおり、本件事故は、原告が、被告丸林運輸の業務を遂行中に発生した事故とは認められないのであるから、被告丸林運輸に、かかる業務外の行動についてまで、従業員に対し安全教育を行う義務を有しているとは認められない。

(五) よつて、その余の事実については判断するまでもなく、被告丸林運輸は、原告に対し本件事故に関して損害賠償責任を負うとは認められない。

二  原告の傷害の程度について

甲一ないし六、一四、一五及び一六の一ないし四、一七、乙イ、ロ一及び二、戊七及び八、検戊一並びに原告本人尋問及び被告丸林運輸代表者尋問の各結果によれば、原告は、事故当日の平成四年八月一日に、座間厚生病院で治療を受け、「右下腿、右足関節打撲、内出血で、約二週間の安静加療」と診断され、骨折があつたとの診断は受けておらず、事故当日も、自ら自動車を運転して帰宅したこと、原告は、同月三日から松江病院で治療を受けたが、同病院では、右足舟状骨骨折と診断されたこと、松江病院で診断した医師の訴外岸本晃男が、レントゲン診断をし、骨折を確認していること、原告の骨折は、骨折して骨のずれる転位のある骨折ではなく、竹を割つた時に亀裂が生じるような形態の若木骨折のような骨折であり、元々、レントゲン写真に写りにくい形態の骨折であつたこと、初診時は、痛みが足全体に広がつていたため、痛みの原因となつている箇所を指摘するのが困難であつたが、松江病院に通院を始めた際には、痛みの原因となつている箇所を指摘することが容易であつたと認められること、同医師は、レントゲン写真のみならず、痛みや腫れ等の臨床的所見も加味して骨折の診断をしたこと、座間病院のカルテには、怪我の原因として、冷蔵庫が足に落下して怪我をしたとの記載が認められるが、右のカルテの記載は、労災となり、報告等の手続きを嫌つた被告丸林運輸代表者の意向で、原告から医師に申告されたものであることが認められる。

以上の事実によれば、原告は、本件事故によつて、右足舟状骨骨折の傷害を負つたものと認められ、右認定に反する戊一の一、二及び三は採用できない。

三  原告の後遺障害の残存について

1  甲一ないし六、一七、戊八、検戊一によれば、原告は、平成五年四月五日に松江病院で後遺障害診断を受けたこと(甲一五)、後遺障害診断書(甲六)には、自覚症状として、「足背(足関節部伸筋腱に沿つた)自発痛、悪天候時疼痛増強、歩行痛あり(跛行)、右下肢を下げていると辛い」と、他覚症状として、「足背部の知覚障害、関節可動制限、右全趾に自動にて制限を認めるが、他動では正常範囲内であり、疼痛のため、全趾に筋力低下を認める(特に拇趾)」と、さらに、関節機能障害として、「右足関節に、自動で(診断書の記載は自動と他動を誤記しているものと認められる)、背屈が零度、底屈が四〇度(左は、背屈が二〇度、底屈が六〇度)の可動制限がある」と診断されていること、右後遺障害診断書の知覚異常とは、針で刺しても反応がないという意味であること(甲一七)、労災で一二級に認定されているが(甲八)、甲一七から見ても、一二級一二号の「局部に頑固な神経症状が残存する」と認定されたと認められること、が認められる。

以上によれば、後遺障害診断を受けた平成五年四月五日には、原告の右足に後遺障害一二級一二号に該当する程度の疼痛が残存していたと認めるのが相当である。

2(一)  次に、右後遺障害診断書には、疼痛が将来に渡つて持続し、回復の見込がない旨が記載されていないこと、後遺障害診断をした松江病院の医師訴外岸本晃男は、その意見書において(甲一七)、原告の右疼痛は、骨折による骨の変形に基づく後遺症ではなく、外傷性の腱鞘炎による痛みであり、医学的にいつまで持続するか予測不明であるとしており、これらを合わせ考えると、平成五年四月五日に原告の右足に残存していた疼痛は、将来、解消する可能性が見込まれる疼痛であつたことが認められる。

そして、戊七、八及び検戊一によれば、原告は、平成七年四月二〇日には、自宅内で、跛行もせず、全く問題なく普通に歩いており、その後、全く問題なく自動車を運転して目的地に到着し、自動車を降りて、跛行もせず、全く問題なく歩行し、さらに荷物を持つて、跛行もせず、全く問題なく歩行していることが認められ、原告の症状は、遅くとも平成七年四月二〇日の時点では、少なくとも、跛行せず、普通に歩行し、自動車を運転し、荷物を担いで支障なく歩行できる程度に消滅していることが認められる。そして、後遺障害認定時に認められた原告の跛行は、右足の疼痛が原因であるので、右のとおり、跛行等の症状が消滅しているのであるから、右足の疼痛も解消していると認められる。

原告は、本人尋問において、検戊一には、原告の様子は三〇秒程度しか映つておらず、その程度の時間であれば、我慢して歩ける程度に回復しているに過ぎず、後遺障害診断時と基本的に痛みは変わつていないと供述しているが、右認定のとおり、検戊一により認められる原告の歩行の様子は、原告が供述するような短時間のものではなく、その歩行の様子から見ても、原告の右供述は、極めて不合理であり、到底、信用することができない。

したがつて、平成五年四月五日に原告の右足に残存していたと認められる疼痛は、遅くとも後遺障害診断後二年を経た平成七年四月二〇日までの間には、通常の生活に全く影響が出ない程度に消滅したと認められる。

(二)  以上によれば、後遺障害診断を受けた平成五年四月五日に原告の右足に残存していたと認められる疼痛は、その診断時において、永続性が認められない疼痛であり、遅くとも二年後には解消される程度の疼痛しか残存していなかつたと認められる。

3  ところで、労働者災害補償保険法(以下「労災法」という。)の後遺障害とは、負傷または疾病(以下「傷病」という。)が直つたときに残存する、当該傷病と相当因果関係を有し、かつ、将来においても回復が困難と見込まれる精神的又は身体的なき損状態をいうのである(「労働災害障害等級認定基準」労働省労働基準局長通達、昭和五〇年九月一日実施、昭和五六年一月三一日改正。)。本件においては、原告には、遅くとも二年後には解消される程度の疼痛しか残存していなかつたのであるから、将来においても回復が困難と見込まれる疾病であつたとは認められず、右疼痛をもつて労災法の後遺障害と認めることはできない。

よつて、原告には後遺障害が残存したとは認められず、右認定に反する証拠は採用しない。

四  休業相当期間

1  本件事故翌日から平成四年一一月一七日までの期間、原告が、一〇〇パーセントの休業が必要であつたことは当事者間に争いがない。

2(一)  甲一ないし六、一五、原告本人尋問の結果、被告丸林運輸代表者尋問の結果によれば、原告は、本件事故当日も、その後の通院も、自ら自動車を運転して行つていること、原告の症状は、骨折の痛みではなく、外傷性腱鞘炎の痛みであることを見ても、原告の負つた障害は、重症と言えるものではないこと、原告の治療経過を見ても、平成四年九月二二日付で、向後一か月間の加療見込と診断されていること、同年一一月六日に、医師から、そろそろ就業するようにとの指示を受けていること、同月一七日に、医師から、会社と相談して就業するように指示されていること、同年一二月一六日には、医師が、原告がまだ仕事をしていないことを不快に思つていること、同日、医師が、原告に対し、再度稼働を勧めたが、原告は、稼働していない理由を、被告丸林運輸から、怪我を完全に直してから仕事を始めるように言われている旨、医師に対して話していること、平成五年一月一二日には、軽作業がないためしばらく通院して様子を見ることになつたこと、同年二月一五日には、原告が本日被告丸林運輸の代表者と会うことを聞いた医師が、原告に対し、仕事を始めるよう指示したこと、重労働しかないが、とりあえず仕事を始めるように指示したこと、原告には、社長と相談すると話していること、同月一八日に、原告は、被告丸林運輸の代表者に対し、仕事を始めさせてくれるように話すと言つていること、同年三月一五日に、原告は、医師に対し、被告丸林運輸は、事務関係の仕事をするように話したが、原告は、運転をしたいため、これを拒否し、稼働しなかつたと説明していること、原告は、平成四年一二月ころ、被告丸林運輸に対し、トラツクに乗る仕事に就かせるよう求めたが、被告丸林運輸は、その時点では、怪我が十分に回復しておらず、トラツク運転の業務は危険と考え、トララツク運転の業務に就くことは認めなかつたが、トラツク運転手の配置を決める、いわゆる地図書きの仕事程度の軽作業であれば、十分に従事し得ると考え、地図書きの仕事に就き、怪我が完治した後にトラツク運転の業務に復帰するように勧めたが、原告は、トラツク運転に固執し、仕事を始めなかつたこと、被告丸林運輸は、地図書きの仕事でも、原告に対し、二〇万円程度の給与を支給するつもりであつたことが認められる。

(二)  以上の事実によれば、平成四年一一月一七日の時点で、原告は、軽作業程度に就くことは可能であり、早急に仕事を始めることが相当であると医師が判断していることが認められ、平成四年一一月一七日以降は、一〇〇パーセントの休業が必要であつたとは認められない。

しかしながら、原告の受傷した傷害は、平成四年一一月一七日の時点では完全に治癒してはおらず、原告は、トラツクの運転に従事することは、危険性の点から無理であり、従前と同様の収入を得られる程度には回復していなかつたことが認められる。他方、当時、既に、地図書き程度の事務関係の仕事であれば、十分に稼働可能であつたと認められ、かつ、被告丸林運輸では、原告のために、地図書きの仕事を用意していたのであるから、地図書き程度の事務関係の仕事について、収入を得ることは可能であつたこと、地図書きでも原告の本件事故時の収入であつた月額約三五万円の約六六パーセントに相当する二〇万円を下回らない収入を得られたこと、症状固定の診断がなされた平成五年四月五日の時点では、一二級の一四パーセントの労働能力の喪失に相当する程度の疼痛が残存していたことが認められることに鑑みると、平成四年一一月一七日以降、症状固定の診断がなされた平成五年四月五日までの間は、その三五パーセントの休業損害が生じたと認めるのが相当である。

3  原告は、平成四年一一月一七日の時点では稼働はできず、被告丸林運輸が、原告に対し、地図書きの仕事に就き、怪我が完治した後にトラツク運転の業務に復帰するように勧めたことをして、勤務地が千葉と遠隔地であり、通勤にも時間がかかるので、体のいい退職勧告であると主張する。

しかしながら、原告の自宅は東京都江戸川区新堀であり、原告の自宅から千葉の被告丸林運輸の勤務地は、原告が自動車を所有し、自動車の運転ができる状況であつたことを考慮するまでもなく、就労を拒否しなければならないような遠隔地とは認められない。しかも、その時点で、原告は、トラツクの運転に従事することは、危険性の点から無理であつたが、地図書き程度の事務関係の仕事であれば、既に十分に稼働可能であつたのであるから、軽作業に復帰し、治癒した段階でトラツク運転の業務に復帰するとの被告丸林運輸の指示は極めて合理的な内容であり、到底、退職勧告と認められるものではない。

4  被害者にも、いたずらに損害を拡大しないように努力することを求めるのが損害の公平な分担の見地からも妥当であり、平成四年一一月一七日の時点では稼働はできず、平成五年四月五日まで安全な休業が必要であつたとの原告の主張は採用できるところではない。

五  原告の収入

1  原告が、平成四年七月一日から被告丸林運輸に勤務していたこと、原告は、本件事故までの間、被告丸林運輸で一か月間しか稼働していないが、原告の被告丸林運輸での平成四年七月分の給与が、三五万〇四一〇円であつたことは当事者間に争いがない。

2  甲九、一二、一九、乙ハ一ないし五、一二、一六、及び被告丸林運輸代表者尋問の結果によれば、被告丸林運輸の給与は、固定給と歩合給の合算であり、原告のような入社一年目の者は、基本給は七万円、無事故手当が一律三万円、愛車手当が一律一万円、ユニツク車を運転していた原告の歩合給は、売り上げが五〇万円を超えた場合、その三〇パーセントと定められていたこと、被告丸林運輸では、売り上げや稼働状況によつてボーナスは支給されることもあるが、本件事故時は、不景気で業績も悪く、数年間は支給されておらず、支給されてもせいぜい一、二万円程度であつたこと、本件事故後、原告と被告丸林運輸の間で、給料を三五万円とし、その八〇パーセントを支給することを約していること、被告丸林運輸は、新聞の求人広告には、月収三五万円以上の収入を得られるとして求人していることが認められる。

以上の事実によれば、原告は、本件事故までの間、被告丸林運輸で一か月間しか稼働していないため、原告の収入が明確に確定できるものではなく、被告丸林運輸での原告の給与は、勤務状況によつて変動があることが認められ、原告が、被告丸林運輸に勤務することで、将来にわたり、確実に得られると認められる収入は、新聞広告に最低給与として提示し、かつ、本件事故後、原告と被告丸林運輸との間で、原告の休業補償として被告丸林運輸が支払う額の基準として定めた毎月三五万円であつたと認めるのが相当であり、右認定に反する原告の本人尋問中の供述は採用しない。

第四損害額の算定

一  原告の損害

1  治療費 五九万六一八二円

甲七により認める。

2  通院付添費 認められない

原告本人尋問の結果によれば、原告は、所有する自動車を、原告自らが運転して通院していたことが認められ、これによれば、通院に付添が必要とは認められず、他に、通院に付添が必要であつたと認めるに足りる証拠はないので、通院付添費は認められない。

3  通院交通費 一万九〇八〇円

甲七、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は、通院当初一〇日間被告丸林運輸が、通院の送迎を行つたが、その後、原告が所有する自動車を、原告自身が運転して通院していたこと、原告の自宅と通院していた松江病院は片道で三キロメートルほどであること、当時、ガソリンは一リツトル当たり約一二〇円であつたこと、通院日数は一五九日であることは認められるが、一回の通院に七二〇円を要したとの証拠はない。原告は、所有する自家用車を運転して通院していたのであるから、通院に要した費用は、ガソリン代程度と認められるが、原告方と松江病院の距離、原告が使用していた自動車を考えあわせると、一回の通院に要した費用は、経験則上、一二〇円程度と認めるのが相当である。

したがつて、通院交通費は、一万九〇八〇円と認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

4  休業損害 一八二万七四七八円

前記のとおり、原告は、本件事故当時、毎月三五万円の収入を得ていたと認められるところ、右は、一日当たり一万一六六六円となる(一か月三〇日で換算し、円未満切り捨て。以下、同様。)

前記のとおり、原告は、本件事故によつて、本件事故の翌日の平成四年八月二日から同年一一月一七日までの一〇八日間は全く就労することができず、同月一八日から症状が固定したと診断された平成五年四月五日までの一三九日間は、その三五パーセントの休業を要したと認められる。

したがつて、原告の休業損害は、右の合計一八二万七四七八円と認められる。

5  逸失利益 一〇九万三三二七円

前記認定のとおり、原告は、永続的に残存する傷害が生じていないので、原告の主張する、後遺障害を原因とする二九歳から六七歳までの逸失利益は認めることはできない。しかしながら、症状が固定したと診断された平成五年四月五日から平成七年四月二〇日ころまでの二年間は、一二級に相当する程度の疼痛が残存していたことは認められるので、その間の二年間は、疼痛による影響で、一二級に相当するの一四パーセントの労働能力の喪失による得べかりし利益を失つたと認めるのが相当であり、これについては、本件と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

前記のとおり、原告は、本件事故当時、毎月三五万円の収入を得ていたと認められるので、原告の年収は四二〇万円と認められる。したがつて、原告の逸失利益は、右の四二〇万円に、労働能力喪失一四パーセントと二年間のライプニツツ係数一・八五九四円を乗じた額である一〇九万三三二七円と認められる。

6  慰謝料 一二〇万円

原告が症状固定までに要した入、通院期間、原告は、平成四年一一月一七日には稼働可能であつたにもかかわらず、その後も、稼働せず、通院を続けていたこと、松江病院のカルテを見ると(甲一五)、平成五年一月以降は、症状が固定したと診断された同年四月五日まで、ほとんど症状が変化していないこと、原告の症状は、骨折の痛みではなく、外傷性腱鞘炎の痛みであること、後遺障害は認められないが、症状が固定したと診断された際に、永続的ではないものの二年間程度継続し、一二級一二号に相当する程度の疼痛が残存していたと認められること、その他、本件における諸事情を総合すると、本件における慰謝料は、一二〇万円と認めるのが相当である。また、原告には、後遺障害が残存したとは認められないので、後遺障害を考慮した慰謝料は認められない。

原告は、トラツク運転手の道を絶たれたことを考慮すべきであると主張するが、原告は、通院に自家用車を運転して通院しているのであり、また、後遺障害が残存しているとも認められないので、原告が、トラツク運転手の道を絶たれたとは認められず、原告の主張はその前提を欠き、採用できない。

7  損害賠償請求関係費 一万一〇〇〇円

(一) 調停費用 認められない。

右調停は、平成五年四月二七日に申し立てられ、その内容は、原告と被告丸林運輸との間で、原告の傷害が完治するまでの間、給与の八〇パーセントを支給することを賠償する旨の合意にしたがつて、右期間以降も給与の八〇パーセントを支給することを求めたものである。

前記認定のとおり、原告は、平成四年一一月以降、医師から稼働するように指示され、かつ、被告丸林運輸からも復職するように指示されていたにもかかわらず、原告は、全く被告丸林運輸に復職しなかつたこと、右調停を申し立てる前の平成五年四月五日には、疼痛が残存しているとの症状固定診断がなされているのであり、右調停申立て時には、原告は、既に被告丸林運輸に復職していなければならなかつたにもかかわらず、原告は全く復職しないまま右調停を申し立て、かつ、約三か月後の同年七月三〇日には、書面で被告丸林運輸を退職する旨伝えていること、被告丸林運輸は、復職指示に従わない原告を既に解職扱いにしていたことが認められる。

以上の事実によれば、本件における右調停申立ては、本件事故と相当因果関係が認められないので、その費用は損害とは認められない。

(二) 診断書料 一万一〇〇〇円

甲一〇の一及び二により認める。

8  合計

以上の次第で、原告の損害額は、治療関係費は治療費五九万六一八二円、通院交通費一万九〇八〇円及び診断書料一万一〇〇〇円の合計六二万六二六二円、休業損害及び逸失利益の合計は二九二万〇八〇五円、慰謝料は一二〇万円と認められる。

二  過失相殺

本件事故は、被告森の鋼材の積上方法の不備という原因によつて発生したものであり、被告森及び同森商店の責任は重いと言えるが、原告は、自発的に被告森の作業を手伝いに行つた際、レールが煩雑に積み上げられており、危険であつたと思つていたと詳細に供述しているのであるから、自らレールの状況を注意し、慎重に作業を進めれば、事故を容易に回避し得たものと認められる。また、本件事故は、原告の義務執行中に、その業務に従つて、必然的に生じた事故ではなく、また、被告森から依頼されて作業を手伝つた結果、発生したものでもなく、原告が、自発的に被告森の作業を手伝つた結果、発生した事故であることを考慮しても、被告森及び同森商店にのみ一方的に責任を負わせるのは相当ではない。

なお、原告は、被告森は、原告が玉掛け作業の資格を有しているかを確認しないまま、原告に無資格で玉掛け作業を手伝わせたというが、原告は、被告丸林運輸の従業員であり、クレーン付き自動車を一人で運転してきたのであるから、被告森が、原告が、玉掛けの資格を有していると考えても無理からぬところであつたのに比して、無資格であることは、原告自身が一番認識しているものであるから、無資格であるにもかかわらず被告森の作業を手伝つたことは、原告の過失として考慮すべき事情であるといえる。しかしながら、本件事故は、玉掛け作業中に、その玉掛け作業自体に過誤があつて、玉掛けを行つていた鋼材が崩れ落ちて発生した事故ではなく、その足下に組んでいた鋼材が落下して発生した事故であるから、右は、過失相殺の事情として斟酌するのは相当ではない。

以上の次第で、本件では、原告の損害から一〇パーセントを減殺するのが相当であるから、その結果、原告の損害額は、治療関係費は五六万三六三五円、休業損害及び逸失利益の合計は二六二万八七二四円、慰謝料は一〇八万円と認められる。

三  既払金

原告が、労災保険から、療養補償給付として六〇万八五五〇円、療養費用として一七六〇円、休業補償給付として一八七万一六九四円、障害補償給付として合計一九六万三四二四円の支給を受けていることは当事者間に争いがなく、右障害補償給付として合計一九六万三四二四円については、損害にてん補することを原告自身が認めている。

ところで、労災保険金は、その性格上、療養補償給付と療養費用は、治療関係費にのみ、休業補償給付と障害補償給付は、休業損害及び逸失利益についてのみ、それぞれ損害のてん補性を認めることができる。したがつて、療養補償給付と療養費用の合計六一万〇三一〇円は、治療関係費の五六万三六三五円に対してのみ、休業補償給付と障害補償給付の合計三八三万五一一八円は、休業損害及び逸失利益の合計は二六二万八七二四円に対してのみ、損害のてん補を認めることができる。

四  損害残額

以上の次第で、原告の損害中、治療関係費と休業損害及び逸失利益は、支払い済みであると認められ、損害残額は、慰謝料の一〇八万円と認められる。

五  弁護士費用 一〇万円

本件訴訟の難易度、審理の経過、認容額、その他、本件において認められる諸般の事情に鑑みると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当額は、一〇万円と認められる。

六  合計 一一八万円

第五結論

以上の次第で、原告の請求は、被告森太市及び同有限会社森商店に対して、金一一八万円及びこれに対する平成四年八月一日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払いを求める限度で理由があるが、被告森太市及び同有限会社森商店に対するその余の請求及び被告丸林運送株式会社に対する請求は、いずれも理由がない。

(裁判官 堺充廣)

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